平成25年度 助成研究の成果発表 森美侑紀(広子)氏(森ノ宮医療大学大学院 保健医療学研究科講師)
1.タイトル:[Research article]
Wound healing potential of lavender oil by acceleration of granulation and wound contraction through induction of TGF-β in a rat model
「創傷モデルラットにおける植物精油の創傷治癒促進効果」
2.主任研究者
森美侑紀(広子)氏(森ノ宮医療大学大学院 保健医療学研究科講師)
3.結果公表
BMC Complementary and Alternative Medicine
4.掲載URL
5.抄録
- 【目的】
- これまでLavender精油が創傷治癒を促進するとの報告があるが、精油が細胞に与える影響やその分子メカニズムについては不明な点が多い。そこで本研究では、創傷治癒過程に対するLavender精油の作用を、組織学的な変化や分子動態の観点から検証したので、報告する。
- 【方法】
- ラットの背部に円形の皮下組織まで到達する創傷を作成し、control溶液(精油の希釈液のみ)またはLavender精油を隔日で創部に滴下後、創部の状態を14日間肉眼的かつ組織学的に観察した。またあわせて創傷治癒に関与する分子の発現状況についても経時的に検討した。
- 【結果および考察】
- 創傷部の面積は、創傷作成後4〜10日目でLavender精油の滴下により有意に縮小していた。創傷部を組織学的に観察すると、4日目においてcollagenを合成する線維芽細胞数が増加しており、I型およびIII型collagenの遺伝子ならびにタンパクの発現も上昇していた。7日目ではIII型collagenの遺伝子発現には差を認めなかったものの、I型collagenでは有意な上昇がみられた。このことはLavender精油がIII型collagenからI型collagenへの置換を早め、肉芽組織の成熟を促していることを示唆していると考えられた。またこれまでの先行研究において形質転換成長因子であるTGF-βがcollagenの発現を促進する作用を持つことが報告されていることから、これを検証したところ、Lavender精油滴下によりTGF-βの発現が著しく上昇していることを見いだした。
さらにTGF-βは、創収縮を促す筋線維芽細胞の分化・増殖を促進することから、これについても検証したところ、創辺縁部において筋線維芽細胞数が増加していた。これらのことからLavender精油はTGF-βの発現を高めることにより、collagenの合成や筋線維芽細胞の分化・増殖を促進する作用を持つことが示唆された。 - 【結論】
- 本研究の結果から、Lavender精油はTGF-βを上昇させ、肉芽組織の形成やcollagenの置換、創部の収縮による組織のリモデリングなどを促進することにより早期に創傷を治癒に導く作用をもつことが示された。またこのことはLavender 精油を用いた治療法が、創傷治療における新しいアプローチ法となる可能性も示唆された。
- 【Key word】
- 補完代替医療、Lavender精油、創傷治癒、TGF-β(transforming growth factor-beta)、collagen
- 【投稿】
- 2015/7/25
- 【受理】
- 2016/5/18
- 【掲載】
- 2016/5/26