令和元(2020)年度
感染見舞金制度の実績と評価


一般社団法人日本看護学校協議会共済会
感染対策室 室長 小沼利光

1. はじめに

「Will」の補償は法令で定める感染症に罹患した場合に、その救済の手助けになればと始めたものです。その制度で群を抜いて罹患報告の多い感染症は、これまでインフルエンザでした。「共済制度=インフルエンザ」のようでもあったわけです。ところがCOVID-19が流行をして様相はすっかり変わり、それが中心になってしまいました。

今回は、日本看護学校協議会共済会に加入されている教職員の先生方、看護学生の皆さまとWill(看護師を中心とした医療保険)に加入されている看護師の皆さまから報告があった感染状況をまとめ、COVID-19の感染状況とインフルエンザやその他の感染症との数値関係の2020年度(2020年4月~2021年3月)の状況を紹介します。

2. 申請件数の動向

1)2020年度の共済制度感染見舞金の対象者数は234,198名の学生さんを中心とした方々です。(表1)

【表1】共済制度加入対象者(2020年度)

種別 加入者数
Will1 16,669
Will2 188,323
Will3 22,074
Will3DX 4,884
Will通信 2,248
合計 234,198

2)2020年度の加入者の中で、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)」の第1章第6条で定義された感染症(「感染症第5分類」のこと)と、別途共済制度が定める感染症のいずれかに罹患して、共済制度の感染見舞金の請求したのは577名でした。

もちろん加入者数の相対比もありますが、東京都、大阪府、千葉県、福岡県と続き、43の都道府県で請求が発生しています。一方、請求が発生しなかった県も秋田、福井、鳥取、香川と4県ありました。(表2)

【表2】感染症罹患者の都道府県別の申請状況(2020年度)

順位 都道府県名 申請数 順位 都道府県名 申請数
1 東京都 88
2 大阪府 72
3 千葉県 45
4 福岡県 42 38 山梨県 1
5 愛知県 31 39 新潟県 1
6 神奈川県 30 40 石川県 1
7 埼玉県 29 41 島根県 1
8 北海道 23 42 富山県 1
9 熊本県 16 43 和歌山県 1
10 鹿児島県 14 44 秋田県 0
11 兵庫県 13 45 福井県 0
12 岐阜県 13 46 鳥取県 0
13 沖縄県 11 47 香川県 0
14 群馬県 10 合計 577

3. 感染症ごとの発生状況

1)COVID-19

【表3】当会会員のCOVID-19での都道府県別申請状況(2020年度)

順位 都道府県名 申請数
1 東京都 77
2 大阪府 53
3 千葉県 32
4 福岡県 29
5 愛知県 29
6 埼玉県 29
7 神奈川県 25
8 北海道 17
兵庫・岐阜・沖縄県
群馬・三重・鹿児島県
熊本・静岡・山口・滋賀県
6~10
広島・宮城・佐賀・青森県
京都・茨城・香川・長野県
福島・大分・長崎・栃木県
2~5
富山・岡山・岩手・奈良県
愛媛・宮崎・和歌山県
1
山梨・新潟・石川県
山形・徳島・秋田県
島根・福井・鳥取・高知県
0
合計 422

当会の補償制度での感染症の申告からうかがえる、都道府県別のCOVID-19の発生状況は、公的機関が発表している罹患者の順とほとんど変わりがありません。やはり大都市東京で群を抜いて申請されています。次いで大阪府、千葉県と続いています。報告が上がっていない県は、秋田、山形、新潟、石川、福井、山梨、島根、鳥取、徳島、高知県など10県でした。あくまでも申請件数からの数字を扱っていますので、“感染したけれど、申請はこれからです。”という会員の方もいると思います。

2)インフルエンザ

【表4】当会会員のインフルエンザでの都道府県別申請状況(2020年度)

順位 都道府県名 申請数
1 愛媛県 2
2 北海道 1
3 大阪府 1
4 岩手県 1
5 香川県 1
他の41府県からの
申請はなかった。
0
合計 6

インフルエンザに関しては、申請件数が北海道、大阪府、岩手、愛媛、香川県の6件だけでした。例年3,000件から4,000件で推移し続けたインフルエンザの申請数が激減したことになります。COVID-19への感染予防対策が、インフルエンザの減少に影響したと推測されます。

3)感染性胃腸炎

【表5】当会会員の感染性胃腸炎での都道府県別申請状況(2020年度)

順位 都道府県名 申請数
1 福岡県 10
2 大阪府 9
3 熊本県・東京都 7
5 鹿児島県・宮崎県 6
7 千葉県 5
8 神奈川県・奈良県 4
10 兵庫・福島・大分県 3
13 北海道・広島県
茨城・長野・山形県
2
18 愛知県・京都府
愛媛・山梨・新潟県
島根・徳島県
1
25 その他23県 0
合計 84

感染性胃腸炎についても全国的な流行は見られず、福岡県、大阪府、熊本県をはじめとする約半数の都道府県から申請がありました。

4. COVID-19、インフルエンザ、感染性胃腸炎と他の感染症の傾向

2019年度まで都道府県別感染報告(感染見舞金請求報告ベース)では、昨年度までインフルエンザ感染症が常にトップの座を占め、次いで感染性胃腸炎、溶連菌感染症、流行性角結膜炎などが上位でした。2020年度には状況が変わり、インフルエンザだけ見ると同年度の感染多発時期(2020年11月~2021年3月)においては、ほとんど発症申請がなく、COVID-19に置き換わったようにも見えます。インフルエンザに至っては、感染性胃腸炎の14分の1、COVID-19の70分の1まで縮小しています。(表6)

【表6】当会会員による感染補償の請求件数(各感染症別)(2020年度)

感染症名 請求件数
新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)
422
感染性胃腸炎 84
A群レンサ球菌咽頭炎 19
流行性角結膜炎 10
無菌性髄膜炎 7
疥癬 7
インフルエンザ 6
溶連菌感染症 6
マイコプラズマ肺炎 5
水痘 2
腸管出血性大腸菌感染症 1
尖圭コンジローマ 1
性器クラジミア感染症 1
流行性耳下腺炎 1
性器ヘルペスウイルス感染症 1
MRSA
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
1
咽頭結膜熱 1
淋菌感染症 1
不明等 1
合計 577

5. COVID-19、インフルエンザ、感染性胃腸炎の年度別比較

これら、3つの感染症をCOVID-19感染症万延する前後の年度で折れ線グラフを作成し、年度ごとの推移を比較してみました。

1)COVID-19では、2018年度、2019年度は全く申請がなく、2020年度に入ってオレンジ色の大きな山が2つあります。7-8月の山が第2波、12-2月の山が第3波になります。(図1)

【図1】COVID-19の申請数の推移(2018-2020各年度)

【図1】COVID-19の申請数の推移(2018-2020各年度)

2)インフルエンザでは、2018年度は、COVID-19が発生していなかった時期です。通年の季節性インフルエンザとして青い線に見るように12月の終わりから翌年の2月の終わりに掛けて、しっかり流行をしていました。それが2019年度になると、その年の流行期に本来なら季節性インフルエンザが猛威を振るう12-2月にかけて、例年の3分の1程度まで激減しています。さらに2020年度に入ると、いわゆるCOVID-19によるパンデミックに圧されてオレンジ色の線に見るようにインフルエンザは年間を通じて全くといってよいほど発生しなくなりました。(図2)

【図2】インフルエンザの推移(2018-2020各年度)

【図2】インフルエンザの推移(2018-2020各年度)

また感染性胃腸炎に関しては、2018年度~2020年度とも梅雨時、秋口、冬場にかけて増加する傾向は変わらない増減パターンを示しています。2020年度(オレンジ色の線)は全体的に半減しているほか、冬場の増加が抑えられています。(図3)

【図3】感染性胃腸炎の推移(2018-2020各年度)

【図3】感染性胃腸炎の推移(2018-2020各年度)

これら3感染症の推移は、共済制度の申請からの解析ですが、会員の皆様が報道等を通じ知る日々の感染症の数値とほとんど変わらない推移を示しています。

6. インフルエンザのレベルマップ(週報)から

国立感染症研究所のホームページでは、週毎にインフルエンザのレベルマップを公表しています。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html)例年インフルエンザが最も流行する時期の1週(12月の最終週)から6週(翌年2月の第2週)、つまり1月を中心とした週報を抜き出して、2018年度(2019年1-2月)、2019年度(2020年1-2月)、2020年度(2021年1-2月)を比較してみました。(図4)

【図4】2019年(第1週-第6週)~2021年(第1週-第6週)のインフルエンザ流行レベルマップ(国立感染症研究所)

2021年度
2020年度
2019年度

グラフを見る際の参考は、何も発生がなければ白、黄色が注意報3段階、赤が警報3段階になります。黄色と赤は、それぞれ色が濃くなるにつれ、注意報が高く、警報も同様です。すべて、地域の保健所560-588箇所の情報を元に作成されています。

2019年1~2月では、全国558の保健所において、第1週(注意報レベル238;警報レベル84)→第3週(注意報レベル77;警報レベル478)→第5週(注意報レベル42;警報レベル510)と、日本地図のグラフに見るように全国最高レベルの警報まで達し赤く標記されています。

2020年1~2月では、全国558あるいは560の保健所において、第1週(注意報レベル154;警報レベル131)→第3週(注意報レベル297;警報レベル137)→第5週(注意報レベル244;警報レベル139)と、日本地図のグラフに見るようにほぼ全国に何らかの注意報及び警報が発令されているものの最高レベルの警報までには至っていません。前年度との比較を明らかに示しています。2021年1~2月では、全国560の保健所の、いずれからも警報は元より注意報の発生報告もありませんでした。当に、共済制度の申請の結果を裏付けるものでした。

7. 最後に

感染症との戦いは、基本的な感染対策を限りなく継続的に実施する以外ありません。勿論、行動制限や公衆衛生的な対策もあります。医療行為によりワクチン接種や投薬の手段も高い効果があります。しかし一人一人が感染対策を怠っては何の意味も無くなってしまいます。

医療従事者である皆さまには“釈迦に説法”ですが、感染経路である飛沫感染、空気感染そして接触感染と、あらゆる方法で攻めてくるウイルスに対しては、世間で言われている“三密からの回避”、“マスク・手洗・消毒”という基本的な感染対策が最も効果があります。

具体的には、空気の循環(換気)は重要なアイテムです。取り分け、空気の入口と出口の両方を作ってあげることが重要です。特に入口を狭く、出口を大きくすると、空気はよく流れます。

ヒトは直ぐに口元や目元に手をやる習慣があります。これでは否が応でも接触感染は避けられません。医療従事者が予防衣をまとい、マスクを掛けキャップを被り、ゴム手袋を付けながら手先を口元や目元に運ぶ姿はよく見る光景です。基本的な予防策としては最も注意が必要な点です。

COVID-19の感染拡大の第5波はδ(デルタ)株でした。2022年12月段階では、ο(オミクロン)株に置き換わり、感染が拡大する可能性があります。オミクロン株はある程度弱毒化している可能性を示唆する情報もある一方、高い感染力があることも否定できないとされています。ウイルスは世代を経るにつれて、弱毒化していくというイメージがあり、この株が広がっても、一息つけるのではないだろうかという安心感があるようですが、その考えは楽観的すぎるでしょう。いずれは、季節性のインフルエンザのようになる時も来るでしょうが、今はその時期ではありません。

季節性のインフルエンザの流行について少し触れてみます。日本におけるインフルエンザの流行は、季節を裏返す南半球にあるオ-ストラリアの前期の冬期流行状況を見ると参考になると言われています。今年2021年の日本時間の夏、オーストラリアの冬期では、同国に季節性インフルエンザは流行していません。そこから考えると、日本でも流行はない可能性が高いと考えられます。もちろん基本的な感染対策が継続されていることも大きな要因と考えています。

多くの会員の皆様、そして多くの医療従事者の皆さまとともに、徹底した基本的感染対策を講じて、この難関を乗り越えてまいりたいと思います。皆さん頑張りましょう!

2021年12月31日

日本看護学校協議会共済会
〒104-0033 東京都中央区新川2-22-2 新川佐野ビル6F